平成25年から平成27年にかけてなされた年金減額について、その取消を求める裁判を行っていました。今回、兵庫在住の方が起こしていた同種の訴訟について、最高裁判決が出されたので、その報告をしたいと思います。
1 裁判の概要
平成11年から13年にかけて物価が下落しましたが、国は景気対策のために特例法を制定し、年金の減額を行いませんでした。
平成24年にいわゆる「社会保障と税の一体改革」による年金関連4法案を成立させ、「平成11年から13年までの間に物価が下落したにも関わらず年金額を据え置いたことによって、本来の水準よりも年金額が2.5%高くなっている(特例水準)」として、平成25年10月に1%、平成26年4月に1%、平成27年4月に0.5%、年金を減額しました。年金を減額しないとしておきながら、突然、据え置いた減額分を下げる(特例水準を解消する)ことにしたのです。
それらの減額が、憲法25条「生存権」、憲法29条「財産権」などに反するとして、全国各地で訴訟を提起しました。
2 判決
全国各地で訴訟が提起され、最高裁判所に係属していました。
兵庫在住の方が原告となった同種事件について、今回、最高裁で不当判決が言い渡されました。国の措置は憲法に反しないという内容です。
理由は以下の通りです。
特例水準の解消が、我が国における少子高齢化の進展が見込まれる中で、世代間の公平に配慮しながら前記の財政の均衡を図りつつ年金制度を存続させていくための制度として合理性を有するものとして構築されたマクロ経済スライド制の適用の実現につながるものであることをも踏まえれば、特例水準によって給付の一時的な増額を受けた者について一律に特例水準を解消することは、賦課方式を基本とする我が国の年金制度における世代間の公平を図り、年金制度に対する信頼の低下を防止し、また、年金の財政的基盤の悪化を防ぎ、もって年金制度の持続可能性を確保するとの観点から不合理なものとはいえない。
以上によれば、立法府において上記のような措置をとったことが、著しく合理性を欠き、明らかに裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものであるということはできず、年金受給権に対する不合理な制約であるともいえない。
3 唯一の光明
結果的には不当判決でしたが、三浦裁判官は以下の補足意見を述べました。年金制度を含めた社会保障制度の現状は不十分であり、更なる充実が求められるというものです。
高齢者を含む全ての国民が最低限度の生活を保障され、健やかに充実した日常生活を送ることができるよう、年金、医療、福祉、公的扶助等を含め、社会保障等の向上及び増進を図ることは、憲法25条が定める国の責務である。社会における諸事情の変化に応じて制度を見直す必要があるが、国民の様々な要因による困窮を回避するため、持続的な制度の下で、現に困難を抱える個人が必要な給付や支援を円滑に受けられることが肝要であり、適切な施策の充実が求められる。
4 今後の活動
年金制度の拡充を求める一つの手段して、裁判を行っていました。
裁判は残念な結果に終わってしまいましたが、拡充を求める運動は裁判だけではありません。これからも年金組合と共に活動を続けていきたいと思います。
弁護士 吉田光利